理学療法士の免許を持って、病院でパート勤務をしている。時給は1,400円だ。
一方、私が掛け持ちしている居酒屋のバイトは、時給1,500円。賄いまで付く。
……おかしくないか。3年以上かけて国家資格を取った医療職が、無資格で始められる居酒屋バイトに、時給で負けている。しかも100円も。
今回は、現役の理学療法士で大学院生という当事者の立場から、この「PTの時給が安すぎる問題」を正面から扱いたい。なぜこんなことが起きるのか、その構造を自分なりに分解して晒していく。同じモヤモヤを抱える医療職や、これから資格職を目指す人に読んでほしい。
※私が触れる年収や時給の相場は執筆時点での概数です。正確な最新値は各自で確認してください。
まず現実:免許職が、居酒屋に時給で負ける

最初に、私の手元の数字を並べておく。
病院でのPTパートは、週2回・1日7.5時間・時給1,400円。国家資格が要る仕事だ。対して居酒屋バイトは、週1〜2回・1日5.5時間・時給1,500円で、賄い付き。資格は要らない。
時給だけ見れば、居酒屋の勝ちである。資格の有無、責任の重さ、勉強にかけた時間とお金を考えれば、直感的には「逆だろ」と言いたくなる。だがこれが現実だ。
では、なぜこうなるのか。理由は理学療法士という職業の構造に根ざしている。順に見ていく。
理由①:診療報酬という「価格の上限」が、国に決められている

一つ目にして最大の理由がこれだ。理学療法士の給料の原資は、その大部分が診療報酬から来ている。
診療報酬とは、医療行為の値段が国によって定められている仕組みのことだ。リハビリの場合、「1単位(20分)あたり何点」という公定価格が決まっていて、1点はどこでも一律10円である。
具体的な点数を見てみよう。入院で行う疾患別リハビリテーション料(施設基準が最も高いⅠの場合)は、2026年6月施行の令和8年度改定で、おおむね次のように定められている。
- 脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅰ):245点(=2,450円/20分)
- 運動器リハビリテーション料(Ⅰ):185点(=1,850円/20分)
- 廃用症候群リハビリテーション料(Ⅰ):180点
- 呼吸器リハビリテーション料(Ⅰ):175点
- 心大血管疾患リハビリテーション料(Ⅰ):205点
たとえば運動器リハビリを60分(3単位)行うと、185点×3=555点、つまり5,550円が施設の売上になる。これに、患者の状態や時期に応じた加算が乗る。代表的なものを挙げると、
- 初期加算:発症・手術などから14日まで、1単位につき45点
- 早期リハビリテーション加算:入院から14日まで(入院1〜3日目は60点、4〜14日目は25点)
- 急性期リハビリテーション加算:重症者などを対象に、1単位につき50点
- 休日リハビリテーション加算:1単位につき25点
つまり、発症直後の入院患者にみっちりリハビリをすれば、加算が重なって単価は上がる。逆に言えば、加算が切れた後の患者を何分かけて施術しようと、1単位あたりの売上は運動器なら185点で頭打ちだ。
ここがポイントだ。普通のビジネスなら、価値の高いサービスは値上げできる。腕のいい職人は高い料金を取れる。だがリハビリの単価は国が決めるので、どれだけ凄腕の理学療法士でも、現場の裁量で値上げはできない。施設が1単位で得られる売上の天井が決まっている以上、そこから家賃や光熱費、他職種の人件費、施設の利益を差し引いて支払われるPTの人件費にも、自動的に天井ができる。これが、理学療法士の給料が構造的に伸びにくい一番の土台である。
点数は2年ごとに改定されます。ここで挙げたのは2026年6月施行の令和8年度改定の値で、施設基準の区分Ⅰ・Ⅱ・Ⅲや対象によって点数は変わります。正確な最新の数字は、厚生労働省の診療報酬点数表で確認してください。
理由②:供給過多。理学療法士が「増えすぎた」

二つ目は、身も蓋もない需給の問題だ。そしてこれは私の体感ではなく、公的なデータがはっきり示している。
厚生労働省や日本理学療法士協会の資料をもとに、理学療法士の数の推移を並べてみる。
- 養成校の数:2000年(平成13年)頃は全国で約118校。それが2023年(令和4年)には275校と、20年ほどで倍以上に増えた
- 国家試験の合格者:毎年およそ1万人前後が新たに合格し続けている。合格率も例年およそ90%と高い
- 有資格者の総数:2011年に約9万人だったのが、2021年には約19万人。10年でほぼ倍増した

増えた理由は単純で、高齢化でリハビリ需要が高まると見込まれ、養成校が一気に増設されたからだ。だが、その増えるペースが速すぎた。
問題は需要とのバランスだ。厚生労働省の需給推計(「理学療法士・作業療法士の需給推計について」)では、すでに供給が需要を上回りつつあり、最も早ければ2026年には供給が需要を超える「供給過多」のゾーンに入るとされている。ちなみに、今がその2026年だ。さらに2040年頃には、理学療法士の数が需要の約1.5倍(45万人超)に達するという試算もある。
モノでも人でも、供給が増えれば価格は下がる。これは市場の鉄則だ。雇う側からすれば「募集すれば応募はいくらでも来る」状態に近づいていく。実際、リハビリ職向けの転職メディアなどでも、応募者が多ければ給与を上げなくても人手を確保できる構造が、賃金の上がりにくさにつながっていると指摘されている。

皮肉なのは居酒屋との対比だ。居酒屋バイトの時給が1,500円なのは、人手不足で「来てくれる人を確保するために上げざるを得ない」から。人が足りない仕事ほど時給は上がり、人が余っている資格職は上がらない。資格の有無ではなく、需給が時給を決めているわけだ。
実際、私のバイト先の居酒屋の店長がバイト集めに難儀しているのをよく見る。大学生が中心の為、毎年必ず3~4人入れ替わる。社会人を雇いたい思いもあるらしいが、社会人は求人に応募してくれないらしい。そのため、やむなく時給を吊り上げているのだとか。私としては助かるが、どこか申し訳ない。
理由③:資格職ゆえの「足元を見られる」構造

三つ目は、少し心理的な話になる。
理学療法士を目指す人の多くは、「人の役に立ちたい」という思いでこの道を選ぶ。やりがいのある仕事だ。だが、このやりがいが、賃金の面ではむしろ足かせになることがある。
雇う側からすると、「給料が多少安くても、この仕事が好きな人は辞めない」と見込める。やりがいで人が集まる職業は、賃金を上げなくても人材が確保できてしまう。いわゆる「やりがい搾取」が成立しやすい構造だ。
加えて、医療職は労働者として声を上げる文化が比較的弱い。患者のために、と我慢が美徳とされがちな世界でもある。これも賃金が据え置かれやすい一因だと、私は感じている。
理由④:パート・非常勤はさらに買い叩かれやすい

四つ目は、私のような働き方に特有の話だ。
そもそも時給制のパートや非常勤は、正規雇用に比べて待遇が低く設定されがちだ。賞与もなければ昇給もほぼない。私の1,400円も、正規職員の時給換算とはまた別の、調整しやすい人件費として置かれている面がある。
学生や副業で「短時間だけ働きたい」人は、足元を見られやすい。フルタイムの正規職に比べて交渉力も弱い。資格職の時給の安さは、この非正規という働き方とかけ合わさると、さらに際立つ。
ズームアウトすると、PTは「時給で見ると稼ぎにくい」

ここまでパートの私の話をしてきたが、「それはお前がパートだからだろう」と思われるかもしれない。正社員ならもっともらえる、と。そこで、正社員の理学療法士を時給に換算して、私のパート時給1,400円と並べてみたい。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査(令和6年)によると、理学療法士の平均年収はおよそ444万円。内訳は、毎月の給与(各種手当込み)が約30.9万円、年間の賞与が約71.7万円だ。これをフルタイム常勤の年間労働時間(1日8時間×年およそ240日=約1,920時間と仮定)で割って、時給に直してみる。
- 賞与も手当も全部込みの総額ベース:444万円 ÷ 1,920時間 = 時給およそ2,300円
- 賞与を外して、毎月の給与だけ:約371万円 ÷ 1,920時間 = 時給およそ1,900円
- 新卒1年目(賞与が満額出ない初年度、年収約330万円):÷ 1,920時間 = 時給およそ1,700円
見ての通り、賞与や手当という「下駄」を履いている間は時給2,300円に見える。だが下駄を脱がせて月々の給与だけにすると約1,900円、新人なら約1,700円まで下がる。
そして私のパート時給1,400円には、賞与もなければ、地域手当も住居手当も退職金もない。つまり私は「正社員の賞与と手当を全部剥がした、素に近い時給」で働いていることになる。正社員との差の正体は、能力差ではなく、賞与・各種手当・常勤という制度の差でしかないわけだ。
ここで見えてくるのは、もっと大きな事実だ。理学療法士という仕事は、時給というモノサシで測ると、国家資格のわりに稼ぎにくい。下駄を全部脱がせば、医療系の国家資格を持つ正社員の時給が、無資格で入れる居酒屋バイトの1,500円と、そう変わらない世界なのである。そしてこれは私個人の問題ではなく、ここまで見てきた診療報酬と供給過多という、業界の構造そのものが生んでいる。
医療職はそもそも「時給で測る」仕事じゃない

ここまでさんざん「安い安い」と書いておいて最後にひっくり返すようだが、大事なことを言いたい。医療職は、そもそも時給効率で稼ぐ仕事ではない。
その証拠に、あれだけ高給のイメージがある医師ですら、時給に直すと意外とそうでもない。厚生労働省の調査では、病院に常勤する勤務医の平均年収はおよそ1,500万円とされる。数字だけ見れば破格だ。だが勤務医の労働時間は週60時間を超えることも珍しくなく、当直も呼び出しもある。これを時給換算すると、額面のインパクトほどは高くならない。研修医に至っては、初任給ベースだと拘束時間の長さの割に時給はかなり低い、とよく指摘される。医師ですら、こうなのだ。
つまり医療という仕事は、時間あたりの効率で割り切れる性質のものではない。目の前の患者が立てるようになる、退院して家に帰っていく。その瞬間に立ち会えること、積み上げた専門性、社会のなかで担っている役割。医療職の本当の価値は、時給の数字の外側にある。
私が時給1,400円のパートを続けているのも、たぶんそこに意味を感じているからだ。お金のモノサシだけで選ぶなら、とっくに居酒屋一本にしている。
時給1,400円は、真の価値ではない

最後に整理する。
- 理学療法士の時給が安いのは、本人の能力の問題ではなく、職業の構造の問題
- 原因は主に、診療報酬による売上の上限、供給過多、やりがい搾取、非正規の弱さ
- 正社員でも、賞与と手当を外して時給換算すると意外と低く、PTは「時給で見ると稼ぎにくい」職業
- ただし医療職はそもそも時給で測る仕事ではない。勤務医ですら時給換算は額面ほど高くない
念のため言っておくが、私は理学療法士という仕事を否定したいのではない。むしろ誇りを持っている。ただ、自分の働きの値段が「君の価値が低いから」ではなく「構造がそうさせている」のだと知ることは、消耗しないために大事だと思う。
最近流行りのAIに奪われる可能性の低い職業の一つとされているし、お金以外のメリットも多分にある。
稼ぐことを目的にするなら、接骨院開業や研究職、医療機器メーカーへの転職を考えればいいと思う。それか副業か。
時給1,400円は、私の価値の値段ではない。そう自分に言い聞かせて、今日もリハビリ室と居酒屋を行き来している。
※本記事は個人の見解と実体験に基づくものです。給与水準や診療報酬制度は地域・施設・時期により異なります。最新の制度や相場は公的資料等でご確認ください。
参考文献・データ出典
本記事の数値は、以下の一次資料(公的機関の公表データ)に基づきます。点数・年収などは執筆時点(2026年6月)のものであり、診療報酬は2年ごとに改定され、統計値も毎年更新されます。最新かつ正確な数値は各一次資料で確認してください。
理学療法士の人数・養成校・需給について
- 公益社団法人 日本理学療法士協会「統計情報」(国家試験合格者数・養成校数の推移):https://www.japanpt.or.jp/activity/data/
- 厚生労働省「理学療法士・作業療法士の需給推計について」(医療従事者の需給に関する検討会 理学療法士・作業療法士需給分科会、平成31年):https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000499144.pdf
診療報酬・リハビリテーション料について
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(医科点数表・通知等):https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
給与・年収について
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」:https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
- 同 職種別データ(政府統計の総合窓口 e-Stat):https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?toukei=00450091&tstat=000001011429
- 厚生労働省・中央社会保険医療協議会「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和5年実施)」(勤務医の給与):https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/24_houkoku.html
【内訳公開】理学療法士のバイト時給が安すぎる理由を、現役の大学院生が晒す【診療報酬】
理学療法士の免許を持って、病院でパート勤務をしている。時給は1,400円だ。 一方、私が掛け持ちしている居酒屋のバイトは、時給1,500円。賄いまで付く。 ……おかしくないか。3年以上かけて国家資格を取った医療職が、無資格で始められる居酒屋バイトに、時給で負けている。しかも100円も。 今回は、現役の理学療法士で大学院生という当事者の立場から、この「PTの時給が安すぎる問題」を正面から扱いたい。なぜこんなことが起きるのか、その構造を自分なりに分解して晒していく。同じモヤモヤを抱える医療職や、これから資格職 ...
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