最近、ミニマリストの肩身が少しだけ狭くなってきた気がする。
数年前まで、ミニマリストは時代の最先端だった。モノを持たない生き方は賢くて身軽で、なんならちょっと意識が高くてかっこよかった。かくいう私も、その思想にどっぷり憧れて、一時期はかなり本気で実践していた一人である。
だが最近、その前提が静かに崩れてきていると感じる。犯人はインフレだ。
先に結論を言っておく。ミニマリズムの「手放して、また必要になったら買い戻せばいい」という考え方は、モノの値段が上がらないデフレ時代だからこそ成立していた。インフレが進んだ今、その買い戻しコストが地味に重くなってきた。だからといってミニマリズムを否定したいわけではなく、両極端を見てきた私の結論は「ほどほどが一番」だ。順を追って書いていく。
私もミニマリストの思想に共感した一人

白状すると、私もミニマリストの考え方には、けっこう共感している。
きっかけは、ミニマリストしぶさんのYouTube。ガランとした部屋、必要最小限のモノだけで完結する生活。それを見て、なんてスマートな生き方なんだと痺れてしまった。守銭奴で貧乏学生の私にとって、モノを増やさない=お金を使わないという点でも、相性は最高に見えた。モノに振り回されず、本当に必要なものだけで生きる。その思想自体には、今でも素直に共感している。

とはいえ私は、しぶさんのように生活をすべて削ぎ落とす、いわゆるガチのミニマリストになったわけではない。動画を見て「これは真似したい」と思ったところだけを、つまみ食いした程度だ。使っていないモノを少し手放し、服はユニクロとGUで制服化し、部屋を適度にスッキリさせた。徹底はせず、ほどよく取り入れた、というのが正直なところである。それでも、モノが減って管理が楽になる感覚は、はっきりと快感だった。あの感覚自体は、今でも良いものだったと思っている。
そしてミニマリストの世界には、有名な考え方がある。「モノは手放してしまえばいい。また必要になったら、そのとき買い戻せばいい」というものだ。所有にこだわらず、必要なときに必要なだけ。とても合理的に聞こえるし、当時の私も素直に納得していた。
デフレ時代は、それで正解だった

この「買い戻せばいい」理論。なぜこれが成立していたかというと、日本が長らくデフレだったからだ。
少し前までの日本は、モノの値段が下がるか、よくて横ばいの社会だった。今日1,000円のモノは、1年後も1,000円か、下手をすればセールで800円になっている。そんな世界では、モノを手放すことに金銭的なリスクはほとんどなかった。一度手放しても、必要になったときに同じ値段か、もっと安く買い戻せたからだ。
だから「持たない」が正解だった。モノを保管する場所代や管理の手間を考えれば、持たずに身軽でいて、必要なときだけ買う方が合理的だったのだ。デフレとミニマリズムは、相性が抜群の組み合わせだった。
インフレで前提が崩れた

ところが、ここ数年で潮目が完全に変わった。
高市さんの積極財政に呼応されてか、総務省の消費者物価指数2025年(令和7年)平均の物価は前年比でプラス3.2%。とくに食料はプラス6.8%、穀類に至っては前年比プラス21.9%も上がっている。お米なんて、2020年と比べると約2.3倍の水準だ。コーヒー豆やチョコレートも、この数年でおよそ2倍になった。もはや横ばいどころの騒ぎではない。

これは2022年ごろからずっと続いている流れで、長くデフレに慣れきった日本が、明確にインフレへ転換したということだ。つまり、今日手放したモノを1年後に買い戻そうとすると、当時より高い値段を払う羽目になる可能性が高い。
「また買えばいい」が、「また、高く買い直すことになる」に変わってしまったのだ。これが、私の言う買い戻しコストの上昇である。手放した時点では身軽になった気でいても、いざ買い戻すときに値上がりしていたら、差額ぶんだけ確実に損をしている。ミニマリストの肩身が狭くなったと感じるのは、この前提の崩れが大きい。
モノを「資産」として見る視点

ここで一つ、見方を変えてみたい。インフレというのは、裏を返せば「お金の価値が下がっていく」現象でもある。
同じ1万円でも、去年と今年では買えるモノの量が違う。お金を握りしめているだけで、その価値はじわじわ目減りしていく。逆に、すでに持っているモノの相対的な価値は上がっていく。去年8,000円で買ったモノが、今は1万円出さないと買えないなら、そのモノは実質的に値上がりした資産のようなものだ。
つまりインフレ下でモノを安易に手放すというのは、値上がりしていく「モノ」を、価値が目減りしていく「現金」にわざわざ交換し、しかも買い戻すときには高くなったモノを買い直す、という二重の損になりかねない。守銭奴としては、これは見過ごせない話である。
ただし、何でもかんでも持てばいい、という話ではない。使わないモノを死蔵しているのは、資産ではなくただのゴミだ。場所代という見えないコストも食う。あくまで「使うモノ」「買い戻しコストが高いモノ」に限った話である。
それでも、ミニマリズムを否定はしない

ここまでインフレを理由にミニマリズムへ疑問を投げてきたが、誤解しないでほしい。私はミニマリズムそのものを否定する気はまったくない。
モノが少ないことの価値は、インフレが来ようが揺るがない。管理するモノが少なければ、探し物に時間を取られないし、掃除も楽だ。選択肢が少ないと、毎日の小さな決断で消耗しなくて済む。服を制服化したのと同じ理屈だ。引っ越しも身軽だし、何より部屋がすっきりしていると心まで整う。これらは値段では測れない、本質的なメリットだ。
ミニマリズムが間違っていたわけではない。ただ、「手放してまた買えばいい」という一点が、時代の前提とズレてきた。それだけのことなのだと思う。
そもそもミニマリズムの発祥がインフレ著しいアメリカなので
両極端を見た結論は「ほどほど」

ここで、私が見てきた両極端の話をしたい。
片方の極は、もちろんミニマリストしぶさんのような世界だ。モノを徹底的に削ぎ落とした、洗練された生活。憧れるし、思想にも共感する。だが、インフレ時代にはあの「手放してまた買えばいい」という前提が、買い戻しコストという弱点を抱えることになる。
そしてもう片方の極を、私は友達の家で見た。モノが床まで溢れ、足の踏み場もない、いわゆる汚部屋である。お邪魔して早々、これは精神衛生的によくないだろうな、と本気で思った。必要なモノがどこにあるかもわからず、管理コストもストレスも青天井。溜め込みすぎは、それはそれで生活を確実に蝕む。
削ぎ落としすぎたミニマリストの極と、溜め込みすぎた汚部屋の極。その両方を見たうえで私がたどり着いた結論は、身も蓋もないが「ほどほどが一番」である。

私自身、しぶさんを見て真似したいところだけ取り入れて、部屋を適度にスッキリさせた、いわば中庸どまりの人間だ。そしてインフレが進んだ今となっては、その中途半端さが、案外ちょうどよかったのかもしれないと思っている。
具体的には、こう仕分けている。よく使うモノ、買い戻すと高くつくモノ、これから値上がりしそうなモノは、ちゃんと持っておく。逆に、めったに使わないモノ、いつでも安くすぐ手に入るモノは、持たない。要は、自分にとっての最適な在庫量を見極める、ということだ。ミニマリストの身軽さと、必要なモノは手元に置く安心感。そのいいとこ取りを狙う。
モノを減らすこと自体が目的になると、インフレ時代では足をすくわれる。かといって溜め込めば、友達の家のように生活が荒れる。目的はあくまで、お金と手間とストレスのバランスが取れた、快適な生活のはずだ。手放すことも、持つことも、そのための手段にすぎない。
今は、持たない美学と持つ合理性の、ちょうどいい落としどころを探す時代なのだと。
※本記事は個人の見解です。物価に関する数値は総務省統計局「消費者物価指数」(2025年平均ほか)に基づく執筆時点のもので、最新の数値は変動します。
【インフレ時代】ミニマリストの肩身が狭くなってきたと思ふ【持たざるリスク】
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